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2011年3月6日~10日に公開しました、親衛隊冒険日誌の第13話分です。
多少の加筆が見える5更新分です。

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ローズ「馬鹿兄? いるんでしょ?」

大きな豪邸の片隅に立てられた小さな小屋。
ローズは何度もその扉を叩く。

ローズ「出てきなさいよ! フローライト! 話を、話を絶対聞かせてもらうんだから!」

ドンドンッといつも夜さくやに脅かされる、その叩き方以上の荒さで、扉を叩くローズ。
次第に扉はミシミシと音を立て、開くことなく倒れてしまう。

フローライト「……まさか、開けるのではなく倒すのが、最近のローズの扉の開け方なのかな?」

煽るようなフローライトの台詞。
普段のローズならそれに乗ってしまいそうなものだがこのときは違った。

ローズ「……カスミちゃんに何したの?」

フローライトをにらめつけたまま、ただ冷淡に言い放った。

フローライト「話をしにきたんだろ? 話をしようよ? それじゃ、ただの質問だよ?」

ローズ「あなたの話をまともに聞く気はないの。カスミちゃんに何したの?」

フローライト「話にきたんでしょ? 落ち着いてよ。そうでないと話せ」

ローズ「カスミちゃんに何したの?」

フローライト「……壊れた人形かい、君は。」

ローズ「カスミちゃんに何したの?」

フローライト「物事を話すには順序というものがあるんだよ?」

ローズ「カスミちゃんに何したの?」

同じ言葉を繰り返すローズ。
段々語尾が強くなる。それを見かねたフローライトは、ようやく事を話し始めた。

フローライト「……別に。ローズがドラッケンで何を習って、どんなことをしていたか、話してあげただけだよ? 本人が聞きたいって言ったから。ローズも話してあげればいいのに。」

ローズ「それだけ?」

フローライト「ああ、『ローズの話』はそれだけだよ。」

ローズ「『私の話はそれだけ』? ……じゃあ、話以外は、何かしたんだよね? 私以外の話も、したんだよね? 全部正直に話して? 話してよ。」

フローライト「……流石に、乗らないか。」

ローズ「……カスミちゃん、異常に興奮してた。原因になっていることが、わからないけど。あの興奮の仕方はおかしいよ! 何をしたの!」

フローライト「ふふ……しかしあの状態の彼女相手に、よく生きて帰ってきたね? カスミちゃんを殺しでもしたかい?」

ローズ「やっぱりそういうこと!? 私に、殺させたかったんだ! 友達を!」

ローズは手荒にフローライトを小屋の壁に叩きつける。
小屋はミシミシと音を立てる。

ローズ「カスミちゃんが銃口向けて、馬鹿兄の名前を出した時、なんとなく話が読めた気がしたの……試験とでも言いたいの? 私は嫌だって言ってるじゃない! どうして!」

フローライト「……だって、その才能……もったいないもの。ふふ……ローズが非情になりきれないみたいだからね……だから、完成させるためにやったんだよ? 何で怒るの?」

ローズ「私は、エージェントなんかするつもりないの! 普通の……冒険者は普通じゃないかもしれないけど、普通の生活がしたいの!」

フローライト「知ってるよ? だけど、ローズの才能はもったいないもんね……何を教えてもすぐに覚えてくれる、すぐに上達する……さらには特異な魔力まで……その才能、僕のためだけにずっと使ってよ?」

ローズ「私は貴方の道具じゃない!」

フローライト「……だから、きちんと道具になるよう、しつけてるんだろ? いい加減、気づこうよ?」

ローズ「……!」

フローライト「どうだった? 友達に銃を突きつけられた気持ち……僕がやったって、気づいてたんだろ? 憎かった? どうだった? はははははっ! 僕が、憎いかな? 僕はいいんだよ! ローズが誰かを殺してさえくれれば! その留め金を外してさえくれれば誰であってもいいんだよ! 僕であってもね!」

ローズ「!!」

ローズは壁に貼り付けていたフローライトを引き剥がすように引き、そして地面にたたきつける。
そして仰向けになったフローライトの鳩尾を荒々しく踏みつけた。

フローライト「ガッ、クッ……そうだよ、それでいいんだよ……そっちの方が、いいよ。ふふ……」

ローズ「もう、私も……限界、だよ……!」

フローライト「だろうね……あの薬、一番必要なのは。ローズだもんね……そのまま僕のことを恨んで! 壊れてしまうといい! ローズが壊れてくれるなら僕はきっかけにでも何でもなってあげるよ! はははははっ!!!」

フローライトを踏みつけたまま、ローズは腰に挿しておいたナイフを抜き、そのナイフを振り下ろす。

さくや「はい、そこまで。」

しかしローズのナイフは高く上げた、その場所で止まってしまう。
突然現れたさくやが、降ろそうとするその腕の下に自分の腕を滑り込ませがっちりと受け止めたからだ。

ローズ「!?」

フローライト「……な、いつから……?」

質問に対し、さくやは1枚の札を見せる。転移札。
一度いったことがある場所になら1度だけ何処にでも移動できる札だ。
それを、『わかるでしょう?』といわんばかりにフローライトに見せ付ける。

フローライト「おかしいな、僕はここに、誰も入れた覚えは……」

さくや「貴方が、カスミと密会している間に少し、ね? 場所はなつき……わたくしの後輩のフェアリーに貴方の後をつけさせて、ね。」

フローライト「……それは、迂闊だったな。でも扉もきちんと閉めていたはずだし、鍵を強引に開けて入ったのなら、不法侵入だね?」

さくや「扉は吹き飛ばさせていただきました。やりすぎたのできちんと直してはおきましたが。貴方、不自然だと思わなかった? ローズが叩いて扉が壊れた事……ローズが、一度壊れた扉を乱暴に叩いたから倒れたのよ? お気づき?」

フローライト「ちょっと待って。それじゃ」

さくや「あと、不法侵入だったかしら? どこに証拠があるのかしら? 教えて? 確かに扉は吹き飛ばしたから、器物損害で訴えられるぐらいはするかもしれないけれど。不法侵入は、ないわよね? だって扉は開きっぱなしだったんだもの。閉めていないほうが悪いのでは? どこからどこまでが貴方の所有地なのか。しっかりとした証拠はある?」

フローライト「……まいったね。そんな返答が返って来るなんて思ってもなかったよ……貴方の、言う通りさ。ここは僕も借りている土地だからね……僕は、訴えれない。訴えるとしたら、持ち主になるね。」

さくや「しかしわたくしを動かすなんて、ローズの癖に生意気よ?」

ローズ「……」

さくや「あら、怖い顔で睨むのね? そう、そんな顔もできたの。……まあ、そこをどきなさい。」

ローズ「……嫌です。」

さくや「ああそう。なら動かなくていいわ。そのまま踏んでなさい。でもこのナイフはダメ。わたくしを止めた癖して自分はその一線を越えようとしているのかしらね、この子は。」

ローズ「あれとこれは、違います。」

さくや「人を殺めるという行為に、あれとこれなんて区別はなくてよ? いいえ、殺めるという行為だけではないわ。本来物事に事情を考慮すべきではないのよ。」

ローズ「自分は、やろうとしたくせに、いうんですね。」

さくや「……はあ、貴方がそういう調子だと、困るわ。で、何、わたくしの物を勝手に弄っているのかしら、貴方は?」

さくやはローズに踏みつけられているフローライトの脇腹に蹴りを入れる。

さくや「あのね? ローズはわたくしが貰い受けたの。だから貴方に勝手に弄られるのは気に入らないの。わかるかしら? ふふ、いい様ね。」

フローライト「貴方は一体、何をしに……」

さくや「え? わたくし? わたくしは単純にローズを引き取りにきただけよ? ローズがここに現れるだろうって予想したのは、アサミンだけど。そうしらどう? ローズが貴方をいたぶってるじゃない。凄く気分がよかったから、そこで見てたの。でもほら、ローズが危ないことをしだしたでしょう? 流石にあれだけは止めないとと思って仕方がなく出てきたのよ。」

ローズ「……さくや先輩って……」

フローライト「普通、あんな会話してたら、止めないかい?」

さくや「あいにくわたくし、自分が常人だとは思っていませんの。……本当、残念ながら。」

そういうと更にフローライトの脇腹を蹴る。

フローライト「ぐ、う……」

さくや「このまま簀巻きにして顔だけあえて出して池に沈めて見世物にするのも良さそうだけど……ローズ、どうしたい?」

ローズ「……えっ!? え? え、えっと……あれ?」

さくや「ようやく、落ち着いてくれたかしら?」

ローズ「え!? ま、まさかさっきまでの、わざとですか!?」

さくや「こういう場合って自分より酷い事をしている様子を見ると落ち着く……らしいわよ。アサミンのやつ、何よ。わたくしがいつもそこまで酷いことしているとでも思ってたの? いつも通りやればいいなんてふざけたことを……! いくらわたくしでも、こんな事を素でやってるわけないでしょう!」

ローズ「……」

さくや「何?」

ローズ「えっと。突っ込みたいけどまあ、今回は置いておいて。……その。馬鹿兄……フローライトと、きちんと話が、したいです。でも。……私一人じゃその……また、やっちゃいそうなので。一緒にお願いして、いいですか?」

さくや「よく言えました。でも遅いわ。もっと早く言いなさい。わたくしでいいのなら、一緒に聞いてあげるわよ。」

ローズ「……これは、先輩の、さくや先輩の予想通り、なんですか?」

さくや「こんな状況で人はまた2人きりで話したい、なんていうことはなかなかないのよ? 計算通りよ。」

ローズ「……計算通りでしたか……さすが、さくや先輩。」

ローズがフローライトを椅子にくくり付はじめる。
フローライトは特段抵抗もせず、さくやに話しかけ始める。

フローライト「しかし、『わたくしが貰い受けた。』か。なんで同類の人に、こんなことをされなくちゃいけないのかな? 僕の気持ち、貴方ならわかりそうなものなのに。」

さくや「わかりません。わたくしは『その人のまま』欲しいの。貴方は、違うでしょう?」

フローライト「……なるほど、そういうことか。確かに、分かり合えそうもないですね。僕は僕が欲しい部分さえ残っていれば、それでいいからね……ふふっ……」

さくや「……下衆ね。本当、これだから男って嫌になるわ……自分勝手で。ところで。」

フローライト「まだ何か?」

さくや「本当に、あったことはないわよね?」

フローライト「またですか……まったく覚えなどありませんよ。」

さくや「……そう。他人の空似、ね……」

フローライト「他人の、空似?」

さくや「気にしないで……ただの独り言よ……」

ローズがフローライトを椅子にくくり終えるとさくやとローズも椅子に座る。

さくや「あくまでわたくしはいるだけ。口は極力挟まないわ。……さ、どうぞ。」

ローズ「フローライト、カスミちゃんに、何を言ったの?」

フローライト「その質問は、答えなかったかな?」

ローズ「……何をした、については『何かを話した』っていう答え貰ったけれど。その『何を言った』、については貰ってないよ?」

フローライト「……答える気はないよ。カスミちゃんに聞いたらどうだい?」

さくや「貴方が、ローズがカスミの母親を殺した原因を作った張本人だと、そう話した。」

フローライト「……口を挟まないんじゃ、なかったのかな?」

さくや「あら、ただの独り言よ? どうして反応するのかしら? しかもあてずっぽうよ? もしかして図星?」

フローライト「!」

さくや「あの子の家庭環境はファンクラブの会員登録の際に少し見ています……あの子は隠し事は嫌いなようだから。母親がない。養子だと。そう自分ではっきりと書いてきたわ。その上で……ローズとカスミの間をこじらせたいなら、そういうシナリオを作るのが一番手っ取り早い。そう思っただけなのよね。」

ローズ「先輩の言動をいちいちに気にしてると、全部喋っちゃうかもね? 馬鹿兄?」

フローライト「……なかなか、頼もしい先輩なようで。」

ローズ「でも何で、私が関係していることになってるの? ……まあ、その話を兄さんが、で馬鹿な私でも予想ついちゃったけど。……兄さんがやったこと、そのまま私のせいにしたね?」

フローライト「……流石にこのパターンを何度も繰り返してれば、さしもつくかい? しつけたかいがあるね。」

ローズ「別にこんなことに鋭くなりたくないよ、私。ねえ、どうして、カスミちゃんのお母さんを殺したの? ……やっぱり、いつもの、仕事、だから?」

フローライト「……覚えてないのか……」

ローズ「え? 何、聞こえないよ!」

フローライト「……それ以外にないだろう? って言ったのさ。ちなみに、依頼人は……彼女の父親さ。ふふ、凄い家庭だろ?」

ローズ「!」

フローライト「父親が母親殺しの主犯で、それに気がついた彼女は自分が殺される前にと父親を撃ち殺してるんだ。彼女はローズと同じ、人殺しだよ? よかったね?」

ローズ「……」

さくや「ローズの場合、貴方が強要しているようにも見えますが?」

フローライト「強要? これはしつけだよ。父も母も、あまりにふがいないからちょっと殺しちゃってね……だから僕がきちんと妹の面倒を見てる。優しいだろ?」

さくや「なるほど、だから馬鹿兄、ね。唯一の家族、だけど家族の仇。兄なんだけど、兄と呼びたくない。」

ローズ「一人で、生きていくのって、やっぱりまだ私には、無理なんです……ナーシャお嬢様とか周りの人は、私のこと、気にしてくれたけど……お嬢様もお嬢様で、色々あるし。だから……」

フローライト「そういえばナーシャお嬢様か。その話の報告も全然だよね、ローズは。」

ローズ「お嬢様は! プリシアナで元気にやってるからそれでいいんです! それ以外に報告することなんて何もない!」

フローライト「いけないよ、ローズ。それは契約違反だ。君はプリシアナにお嬢様があの男と接触しないよう監視し妨害するのが役目だったはずだ。」

ローズ「ふんっだ。私は既にナーシャお嬢様に買収され済みだもん! 虚偽報告がむしろ役目だもん! 報告してもしなくても同じじゃない!」

フローライト「……!? ろ、ローズ、いつの間に!?」

ローズ「……あれ、なんで、この話に?」

さくや「ローズ、あなた、自分でその話に持っていったでしょ……? あと、それって、喋って、よかったの?」

ローズ「……あ、あああ!? まずい、本格的にドラッケンに戻れなくなっちゃった! 私! 一応いつでも復学できるようにしておいたのに!」

さくや「……そうね、話から察するに、戻れないわね……これは。戻りたければ戻ればいいけれど、すぐ退学にされても文句は言えないわよね……」

ローズ「どうしましょう! どうしましょう! 先輩!」

さくや「それをわたくしに聞くの? いつもの調子に戻ってくれるのはいいのだけれど……もう、どうしようもないから諦めてプリシアナにいればいいんじゃないのかしら?」

ローズ「……うう、そうします……」

さくや「別に落ち込む必要もないじゃない。一応、学校には通えるわけなのだし……あ。」

ローズ「え、どうしかしました……ああ!?」

さくやとローズが目を話した隙にフローライトはロープを断ち切り、小屋から脱走していた。
既に、付近に人影は見えない。

ローズ「あの、馬鹿兄……この状態で何処へ!」

さくや「間違いなく、カスミね……まだ使い道があると踏んだんでしょうね。カスミの所へいくわよ? 大丈夫?」

ローズ「……今日のさくや先輩は、優しいですね。……大丈夫ですよ。いきましょう!」


おまけ
ローズ「ううう……馬鹿兄に振り回されて。さくや先輩には怒られちゃうし。お嬢様のこと話しちゃうし。私、本当ダメだなぁ……」

さくや「性格は早々直せないものよ。上手く付き合っていくことね。」

ローズ「……先輩、直す気ないですもんね。参考になります。」

さくや「……貴方は、痛い目合いたくなければきちんと直すべきだと思うわ。」


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